生産者紹介-庄下糀屋

生産者紹介-庄下糀屋

五代続く糀屋、糀つくりは冬の間の女性の仕事だった

 海と山が近い南伊勢町。海沿いから一歩山側に入ると、そこにはもう波の音や潮の香りは届かず、広がるのは里山の 景色。押渕地区にある庄下糀屋さんを訪ねたのは、ちょうど稲刈りが終わった頃。田んぼには赤とんぼが舞っていました。
「少し山手入っただけなんですけど、谷になっているので寒暖の差が激しいんですよ。だからお米がおいしくなるんです」と話すのは五代目の庄下真史さん(32歳)。

 代々この地で米づくりをおこなってきた庄下家が糀づくりを始めたのは、100年以上前のこと。夏は家族総出で田仕事、冬は男の人は木を伐ったり山仕事をおこなうため、糀づくりは女の人の冬の仕事でした。 「糀は味噌や醤油、日本酒など、日本の伝統的な発酵食品には欠かせないもの。昔は各家々で作られていたと思うのですが、それを商いとして土台を築いたのが三代目である僕の祖母です。今年84歳、現役ですよ」と真史さんは誇らしげに話します。
「祖母が作った糀を、祖父が背負子に担いで山道を歩いて隣町へ売りに行っていたそうです。その頃は物々交換も多かったようですね。『糀にしてほしい』と米を預かり、それを醸してまた持っていったりということもあったようです」

 その後、糀づくりの技は母親の春美さんに伝えられます。春美さんは23歳の時に嬉野町(松阪市)から押渕に嫁いできました。「それまで糀は見たことも触ったこともなかったから、こんな風にできるんだってびっくり。でも甘酒は嫌いじゃなかったので、糀の香りにもすぐに慣れました。お姑さんに一から教えてもらいながら一緒に作ってきたんです」と懐かしそうにほほ笑みます。
「子どもの頃から3人姉兄の中で真史だけが糀の作業をはじめるとそばで見ていたんです。興味があったんかな(笑)」

昔ながらの方法を今に伝える

 糀屋を継ぐことを決心した真史さんは高校卒業後、東京農業大学短期大学部の醸造科に進み発酵について学びます。
「大学で学んでますます糀の奥深さを知りました。糀は伝統食品であり、この家やこの地域の食文化が伝承され今に残ってきたものだと思っていて。南伊勢町でたった一軒残る糀屋を失くしたくなかったんです」
 庄下糀屋さんは、原料のお米をすべて自家生産でまかなっていることが大きな特長です。 「品種はコシヒカリ、種も自家採取してるんですよ。家族だけで栽培しているので、収穫量など毎年必要分を確保できるかどうか不安なところもありますが、この地域も過疎化・高齢化が進み、米づくりをやめる農家さんが増えてきたため、その田んぼを借り受け、栽培面積を増やしていっています」

 米糀づくりは、稲刈りが終わった秋からが本番。
「早春から育ててきたお米が糀になる。1年間の作業の最終段階です。感慨深いものがありますね」
まず、お米を洗い半日ほど水に浸けます。水切り後、木樽に入れ蒸します。蒸したお米をむしろの上に広げ、しゃもじで何回も返しながら人肌まで冷まします。
「木樽は30年以上、むしろも昔から使い続けているもので。むしろはもう編める人も少なくなりましたね」
次に、冷ましたお米に種麹をふりかけ、すべてのお米に麹菌がいき渡るようしっかりと混ぜます。 「種麹は仕入れ(購入)していますが、全国に数件しかないです。1回に30~40gほどふりかけます。1回分は量りませんけど、だいたい手の大きさと感覚でふりかけます(笑)」。ここまでが1日目の作業。

 2日目、麹菌がお米に入りやすいよう再度混ぜます(はぜ込み作業)。麹板に入れ平らにならし(盛り作業)、室(むろ)と呼ばれる発酵部屋に入れます。
「室の室温は30℃がベスト。上げ過ぎると他の雑菌が繁殖して、麹菌が死んでしまいます。天井のしずくを見てください。すごいでしょ。これは麹菌が発酵する熱で自然発生したものなんですよ。温度管理が重要ですね。寒かったらストーブを入れたりします。1日経つと麹菌で板一面がフワフワに。『花が咲く』と表現するんですよ。できあがりかどうかは、花のつき具合をみて判断。白くフワフワになったらできあがり」
できあがった米糀は乾燥させて包装。完成までだいたい4~5日間かかります。


糀のパワーを美味しさを体験

 ふと、室のそばに目をやると黄色い麹菌をまとった豆糀を発見。
「うちが作る味噌は、米糀だけではなく大豆に麹菌をつけた豆糀も使用します。おもしろいのが、黄色い豆糀と白い米糀を一緒に室に入れても麹菌は混ざらないんですよ。不思議ですよね」


 不思議も不思議。たった1日でフワフワの糀の花が咲くのも、発酵の熱で室の中があれだけ温かくなることも、不思議なことだらけ。糀の活きる力を感じずにはいられません。そしてそれが古くから日本の食文化に深く関わっていたことにも。
「今はSNSやウェブサイトで糀レシピがたくさん見られます。ぜひお家で甘酒や塩糀などを作ってみてください。だんだん甘みや旨みが増していく様子に、連綿と続いてきた糀のパワーを体感していただけると思いますよ」

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